2013年05月31日

幌馬車に揺られて。

札幌市の中心部にあるビル群を東西に貫いた大通公園に、元競走馬が働いている。競走馬といっても、ばんえい競馬を走っていた芦毛のペルシュロン種(重種馬)。名前を銀太クンという。私は生粋のサッポロっ子なので、この地で観光幌馬車があるのはもちろん知っていたし、子どもの頃、1度だけ乗ったことがある。たしか小学校4年生だったと思う。幌馬車の創業が昭和53年というから、開業したばかりということになる。おそらく、ニュースか何かでそれを知った母が私を喜ばせようと思い、連れてきてくれたのだろう。その頃の私は、少し危険な子どもだったのか、都会をゆく牧歌的でノスタルジーな幌馬車より、その隣に偶然停車していた真っ黒の街宣車に乗りたいと反抗していた。どんな関係筋の車両か薄々知っていてのこと。そんな調子だったから、初めての幌馬車体験をまったく憶えちゃいない。今思えば大変申し訳なかったなと思うし、へんてこな思い出のまま、市外のひとにサッポロっ子を明言することなどできない気がしてきた。幌馬車から札幌の街をみてみたい。

木曜日。雨上がりの午後。快晴!これ以上ない絶好の幌馬車日和になった。以前より面識のあった御者(馬車の運転士)の渡部一美さんに連絡を取り、35年ぶりの幌馬車に乗り込んだ。

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銀太クンは2代目。平成14年生まれの11歳。元ばんえい馬といっても、後に引退を早めてしまう原因の『優しすぎる性格』がにじみ出ている好馬体。山のように盛り上がる筋肉ではなく、しなやかでスマートな重種馬だった。およそ1トンある幌馬車だが、木製の車輪からゴムタイヤに改良してあるので、出だしの一瞬、大きな力で曳いた後は、いたってなめらか走行~♪銀太クンに過度の負担はない。馬装についた大きな鈴と、カッポカッポと心地よい蹄の音がビル街を行き交う人目を引く。銀太クンをみるひとたちはみんな笑顔だ。気がつけば、私も笑顔で沿道に手まで振っていた。まるで雅子さまになった気分!何だか爽快です!

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銀太クン自慢のお尻。ピッカピカ。メジロマックイーンが2頭いるような贅沢で優雅な存在感。幌馬車からの目線は高く、大型バスが通り過ぎてもなぜだか誇らしい。「どんなもんだい!」と言いたくなる。銀太クンは馬車を曳くために生まれてきたような優等生。何事にも動じることなく、ほとんど自分の意志で動く。渡部さんはほんの少し手綱で扶助したり「はい銀太クン、赤信号ですよ~」と声をかけるだけ。もちろんビタッ!と停まる。なんておりこうさんなんだろう。乗車してわかったことだが、街中の車列も、銀太クンの幌馬車には一目置いているのか、横を通過する時も爆音を轟かす荒い運転はしていない。市民みんなが、銀太クンの仕事ぶりを見守っていると感じた。馬をみて、ひとが優しい運転をする。素敵な相乗効果だ。

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休憩ポイントである北海道庁旧本庁舎(赤レンガ)前。幌馬車を降り、銀太クンの調子を気遣う渡部さん。日蔭のある場所を選んでいる。夏でも、ビル街の日蔭はひやっとしていてとても涼しい。「銀太クンあっての自分」と言い切る渡部さん。大切でたまらないんだと、痛いほど伝わってくる。銀太クンも幸せそう。「馬はひとと一緒に働いている時が一番いい顔をしていると思うんだ」。この後バケツいっぱいの水を飲みほして、しばしの仮眠?うとうとしている。

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馬車の中で、現在の社長である先代の土屋光雄さん(故人)の奥さま豊子さんが、バスガイドのようにマイクを持ち、札幌の街を紹介してくれる。サッポロっ子が札幌観光されてます!35年間、幌馬車とともに中心街を見つづけてきた豊子さんに、今の札幌はどのように映っているのでしょうか。そんなに変わってないと思うは私だけかな。

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銀太クン、堂々の1番人気!はい、そこの外国人観光客の方(台湾のひと?)さっぽろ名物:幌馬車ですよ~。わーわー言ってないで、乗ってみませんか?けっこうな騒ぎになっても、銀太クンはいたって冷静。渡部さんは、にわか観光客整理。縁石から車道に出て撮影するひとを注意したり、馬の嫌いなフラッシュをやめてもらうなど、いろんな意味で一番緊張する時だという。

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時計台、赤レンガの観光ポイントで停車して、トータルおよそ40分の「時計台コース」終了。はじめは40分と聞いて長いのかなと思ったけれど、なんのなんの、あっという間だった。銀太クン、お疲れさまでした!楽しかったよ♪

幌馬車に揺られていると、私の中に眠っていたDNAが「懐かしいね」と言っているようだった。その懐かしさは、母から受け継いだ遺伝子レベルの記憶だと思われ、銀太クンから伝わるやさしい揺れは、私の知らない遠い遠い昔に遡り、実際に幌馬車に乗って札幌のビル街を見ている景色と不思議な融合をしていた。母も子どもの頃、幌馬車に乗って隣町などに出かけたのだろうか。銀太クンのような力自慢の馬たちが、石炭や丸太を運び、時にはひとを乗せて仕事をしていた時代。たくさんの銀太クンがひとを助けてくれていた。さっぽろ名物観光幌馬車は、むやみに先を急ぐ時計の針を、蹄の音とともに引き戻してくれるタイムマシーンのようでもあった。

「札幌って、こんなにきれいな街だったかな…」

そんな風に思えたのは、ゆっくりとした幌馬車の速度のおかげで、街の隅々まで丁寧に眺めていられるからこそ。車に乗って通り過ぎていただけの私には、新しい発見ばかりだった。銀太クン、ありがとう。本当に気持ちよかったよ。

今日で5月も終わり。ライラックが満開になった札幌の一番いい季節になりました。すべすべの空気と青い空。日本ではここだけにしかない「街中を行く幌馬車」の旅は、大通公園4丁目横にあります。

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