2015年07月27日

怪我の功名。

最近ちょくちょく出入りしている近所の居酒屋には、私のような「時々、おひとりさま」でも気軽にどうぞという感じで歓迎してくれるカウンターがあり、中には、うら若い(おそらくうちの息子と同じくらいの20歳を少し越えたところか)板前さんがふたりいて、入店するなり「生(ビール)ですね!」と、気持ちのいい声をかけてくれる。

かけつけぐびびと3回ほどノドを鳴らした後に、「いつもの」と言えば、大好物のシメサバとイカ刺しの、こんもりとした盛り合わせが到着して、しばしのスイッチオフ(ここら辺で私、何もかもが終わったような、すごくバカな顔をしていると思うが気にしない)。

このお店のいいところは、気の利いた板さんと、居心地のいいカウンターだけではない。

道内に出回っているスポーツ新聞がズラリと並べてあり、ろくに誰も読まないのか、たいして広げられた形跡もなく、私はここに来るたびに、豪快に、気持ちのいい音を立てて紙面を広げることができるのだ。

「さてさて、今週は、どうしましょうかぁ~…」

ひとに聞かせたい音量でひとり言を放つと、決まってズッキーニ風の板前氏が、「大きいレースでもあるんですか」と応えてくれてとても嬉しい。ビールもさらにおいしくなる。

そういえば、気のせいか、初対面のひとに「競馬をしている」といっても、さほど驚かれなくなったのはなぜだろう。おばさんになった証拠だろうか。

ちょっと前なら、そんなたいしたことのない告白にぎょっとされたり、野蛮なものを見る目に豹変した友人を何度もみてきたというのに。

「女のくせに」や「儲かりまっか」などのたぐいは、とっくの昔に、昭和博物館の「よくない方の歴史コーナー」に文字通りお蔵入りしているが、競馬場のいまはまさに老若男女。小さなのお子さまの遊び場までをモーラした一大アミューズメントパーク。想像以上に競馬がカジュアルになったということでしょうか。

きけば、板前氏は、競馬に興味があるものの、仕事が忙しすぎて、ちゃんと考えたり向き合う時間がないという。

そうそう、そうなのよ。たぶん競馬の一番いい時代は、どこのお父ちゃんも、夜の6時頃には判で押したように帰って来て、みんなそろってご飯を食べたり、土曜日は仕事だけど半ドンだったし、札幌祭りの日はなぜか休みになってたし、日曜日は何もしないで、おおかた家にいたっけな。同級生のお父ちゃんは、雨が降ったら休みだった。

私が子どもの頃は、24時間営業も、年中無休もない時代で、みんなちゃんと休むべきときはやすんでいたな~と、ジョッキ3杯目あたりで、びっくりするくらい久しぶりに思い出した。

いったい誰なんだ。ただでさえ「ついうっかり働いてしまう」勤勉な日本人を、さらに働かせようと仕組んだやつは。シフト制?よくよく考えれば、なんて恐ろしい勤務体制だろう。

競馬ができなくなるじゃないか。

板前氏は、「走りそうな馬いますか」と、マグロの刺身を盛りつけながらいうけれど、恥ずかしながら、私に訊いてもダメなので、何か気の利いた情報でもないかとスポ紙をガサガサとめくってみた。

うん、確かに。勉強すればするだけ馬券が当たるわけではないけれど、しないよりはしたほうがいいに決まっている。競馬を考え、競馬人気をイッキに上昇させる起爆剤は、年中無休24時間営業、残業代がないと給料にならなくて、やむなくやってるおかしな残業などを廃止すれば、時間にゆとりができて、いよぉ~し!競馬でもやるかー!みたいな人生の余裕が出てくるはずですよ。

と、

ここまでは相変わらず長すぎる前置きでして…。

先日、思わぬことでヒザを痛めて丸2日ほど歩けなかった(初日は車椅子)私は、いつになく、スポーツ紙や競馬雑誌を入念に熟読することができた。

そのおかげもあってか、昨日の函館2歳ステークスは、みごとに1着から3着まで的中させるパーフェクト予想ができ、それなのに買い方がケチくさくて馬連のみのGETとなった。チッ!3連複にすればよかったなー!

この私がそんなことになるのはめずらしい?そうですよ、大変めずらしいことになりました。

実は、週刊ギャロップで連載をしている、競馬雑誌ROUNDERS編集長次郎丸敬之氏のコラムやサイトを参考にして、ダイワメジャーの牝馬から買ってみたところ、結果オーライに。ありがとうございます。私は1度この雑誌に寄稿したことがあり、次郎丸氏のきめ細やかでよどみのない馬券の考え方に敬服している。

もちろん、1着になった1番人気ブランボヌールに関しては、「函館は、イワタを買っときゃなんとかなる」ということで、迷いなく買い目に入れ込んだ。10番人気だったヒルダを買ってるあたりなんかは、尊敬するひとには迷いなくついていく自分の素直さがいい感じに出た模様。勉強の成果なのか偶然なのかはわからないが、私はいつもこんな風に何気ない時に限って当たる。これも怪我の功名ってことで。しかし1300円って(笑)

さて、いよいよ待ちに待った札幌開催が、8月1日土曜日からはじまる。今のところ、週間予報は曇りで、お天気の心配ないようだ。

板前氏に「土日、シフトが休みになったら、競馬場へおいで」と誘ってみた。こんなに忙しい若者だ。土日がうっかり休みになっても、いざやることがなくて、もったいない時間の使い方をするかもしれない。うちの息子も、まさにそんな感じだし。

「ぼく、こう見えても、家に帰れば女房子どもがいる36歳ですよ」 え?22か3でないの?

相変わらず、男を見る目がイマイチだなぁ~と思いながら、ガッサガサに広げまくった新聞をたたみなおした。

いつか本格的に板前氏が競馬を始めることができる日が来ればいいな。

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以上

上坂由香

出身地
北海道札幌市
職種
エッセイスト

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