北海道の夏らしく、からりと気持ちのいい7月の風の中。ノーザンホースパークで行われた、国内最大の競走馬セリ市『セレクトセール』へ行ってきた。
事前にセレクトセールに行くと宣言すれば、友人から「いい馬買ってこい」とベタなジョークが返って来て面倒くさいが、もう何も書けません…と言いながら襟裳岬からダイブしたり、あとの借金は任せた…と一筆したためて軒先で首を吊っても、私の生命保険内では到底買えない馬たちがズラリ!夢の中で、こども銀行のお札を24時間体制で手書きしても間に合いませんなぁーと昇天しながら、会場の動向を見守っていた。
すでに関係各位の報道で、どえらい数字が叩きだされているが、2日間の合計落札額は、史上最高の161億3746万円(税込)!!!昨年の141億2738万円を大幅に上回る、素晴らしい売り上げになった。消費税だけみても、ものすごい金額が我が国全体を潤す結果に。低層で生きる庶民を代表してここに御礼申し上げます。
1歳馬の最高価格は、オーサムフェザーの2015(牡・鹿毛)で2億8000万円(税抜。以下同)。もちろんディープインパクト産駒。KTレーシングさんでみごとなビットだった。
当馬は、こちらもディープインパクト産駒のイルーシヴウェーヴの2016(牡・鹿毛)で、2億8000万円で落札。母はフランス1000ギニーなど5勝しているそうで、日本ダービー制覇まであと1完歩か!の里見オーナーが競り落とした。
今年のセールの目玉はなんといっても当歳。これが初年度産駒になる世界を制したジャスタウェイ(父ハーツクライ)の子どもたちに注目が集まっていた。
そのジャスタウェイが親孝行息子という大和屋暁オーナーは、初孫(?)になるレイズアンドコールの2016を4,700万円で、アドマイヤの冠名でおなじみの近藤利一オーナーも、ジャスタウェイ産駒を生み落した愛馬アドマイヤテレサ(豪州コーフィールドカップを優勝したアドマイヤラクティの母)の当歳を1億4000万円で落札。それぞれの馬主さんたちに縁の深い「生まれいずる理由」も含め、キミこそ我がファミリーである!といった仔馬に、大いなる愛と夢を託した形になった。
アツアツに熱せられた大金が、火の玉のように右から左へ行ったり来たりするセリの中で、人情味あふれる背景を感じると、こうみえても母のハシクレ、1頭しか産駒を残せなかった私でさえ、胸がきゅんとして感動してしまった。
「どこ仔もみんな、ええこに見える」私が特に注目していたのは、まず、ホエールキャプチャの2016。父はオルフェーヴルという、もはや説明のいらないこの同級生夫婦の愛の結晶ちゃん。
馬体は芦毛だというが、まだふくらみきれてない蕾のような淡い栗毛だった。芦毛のオルフェって…。何かの間違いでゴルシ風味にならないように、渾身の念力を送っておいた。
私自身もそうだったが、初めて生む子が男の子の場合、とにかく「でかした!」と大げさにもてはやされ、一族総出で大宴会になることもしばしば。キャプチャもきっと産褥の頃は、よかったよかったと、何度もお祝いされたことだろう。そのかわいい仔馬は、誰よりも熱い闘志をみなぎらせた岡田総帥が落札。1億7000万円という情熱価格に、母キャプチャも心の中で、ガッツポーズをしたでしょうなぁ~。
そしてもう一頭。ステイゴールド最後の一粒種、エレインの2016。
随分と前に「ステイは死なない馬だと思っていた」と書いたことがあるが、そのステイの命の灯が消える直前に宿った大切な仔馬も、レインボーライン(父ステイゴールド)の三田昌宏オーナーが1,400万円で落札。陽に照らされ、ポカポカとあたたかい大地で眠るステイが、むくりと起き上がるようなビットの音がした。いかにもヤンチャな顔つきが、ステイの忘れ形見感を、最大限にかもしだしているようだった。
今回、写真撮影をお願いした長谷川さゆり氏イチオシのマルペンサの2016(父ディープインパクト)の可愛らしさったらない!お値段以上のめんこちゃんである。無事に里見さんチの仔になりました。
マンデラの2016(父ディープインパクト)は、大塚亮一オーナーがみごとに落札。まだあどけない眼差しは、その先にある「世界」が見えているかのようにキラキラと輝いていた。
セレクトセールは馬のセリなので、当然馬が主役でもありながら、会場内は馬主さんを中心に、騎手や調教師、牧場関係者、血統アドバイザー、報道関係各位が集結して、競馬界の一大社交場となってとても華やか。あちらこちらで、世界を見据えた馬談義が聞こえてきた。会場に飾ってあるマセラッティ(2,600万円)が軽自動車に見えてしまうくらいのスケールといったらわかってもらえるだろうか?
さらに、年々増えている外国からお越しの馬主さんが目立つ。スマホ片手に何やら連絡を取りながら、さりげなく手をあげてセリに挑む姿を隣で見ていた私は、その白い小指に、赤いおリボンでも結びましょうか?と、無言のチャチャを入れながら、白熱する日米ガチンコ対決を静観していた。今の時点でこうならば、いつか日本も外国からの輸入ではなく、馬を輸出するのが普通になる時代が来るのかも…。
私のようなものは、いつまでたっても世界が遠く、背伸びをしたって海しか見えないけれど、馬主さん方は、ドアを開ければすぐそこに世界があるんだなぁ、日本競馬ってあらためてすごいなぁと度胆を抜かれることばかり。いろんな意味で破格のセレクトセールでした!
掲載写真・撮影・提供:長谷川さゆり氏