中央競馬上半期の総決算は「ゴールドシップ3連覇なるか」という歴史的なビッグタイトルがついた第56回宝塚記念(阪神:芝2200m)!
ようやくこれから道民あこがれの夏に向かうという時期に、なんでもう締めくくってしまうのかという、未だに慣れない時差の中、神聖なる紙の馬券を求めて札幌競馬場へ向かった。
競馬場にはすでに馬友のリエちゃんが到着しており、年金はすべて馬券につぎ込むという命知らずのご老人に取り囲まれ、追っかけ私の弟分であるソメコも合流して、勝つ気満々の臨戦態勢に入った。なんたって宝塚記念。先日の門別競馬で3300円の馬連を当てた種銭を、ぜ~んぶ放出しようってんだから、私も相当の覚悟である。
「あなたの夢はどの馬ですか?」
はい!私の夢はゴールドシップであります!と、小学生のように元気に言い放ってみたものの、リエちゃんはラキシスからゆくというし、ソメコは蚊の鳴くような声でゴルシかなとつぶやく。バチコーイ!腹の底から声、出さんかーい。
ゴルシは当然1番人気。私を含めた競馬ファンが、馬券という魔法の紙で、右から左へ70億円ほどを簡単に転がす経済の御柱!極太の軸馬になっていた。
牝馬のご指名ナンバーワンであるラキシス嬢は、そこにしっとりと寄り添うように2番人気。3番人気はヌーヴォレコルト。前日の函館で派手に勝ち鞍を積み上げていた、絶好調の岩田騎手効果も手伝っていたように思う。
距離は違えど、前走の鳴尾記念(阪神)を優勝していたラブリーデイの評価が低いな(6番人気)~と思いながら、ヌーヴォを切ってラブリを馬券に投入。ヒモの一覧は上からカレンミロティック、デニムアンドルビー、ラキシス、トーホウジャッカル、ラブリーデイ。堂々の1頭軸流し(でも馬連)で…。
ここまで書いて、もう我慢ができなくなってきた。
叫ばせてもらおう。
Why! japanese People!(厚切)いや、ゴールドシップ!なぜなんだ!涙
いつものように、名曲ドナドナが聞こえくるモッサリとした歩みのパドックからはじまり、返し馬ではカメラマンさんに「ちゃんと撮ってね」とご丁寧に挨拶までしに行って、ゲートは目隠しされてもへっちゃらで、へいへい、あっしはちゃんと入りますよと、まるっきり安心させておきながら、まさかのブチ切れ!
長く待たされたのがよくなかったのか、はたまた、同じ菊花賞馬のトーホウジャッカルが気に入らなかったのか、見飽きた顔のラブリーデイが、うかつにゴルシと視線でも合わせてしまったのか…。
ゴルシは1度ならず2度までもゲート内で立ち上がるという謎の行動をとり、運悪く、2度目に立った瞬間にゲートが開いてしまった。
「おわた――――――――っ!」…ソメコよ、そんな大きな声を腹から出すんじゃない。
普通なら、かなりの確率で終わったと思わせるスタートなのに、私はそれでも、まだいけると本気で信じていた。
いやいや、まだまだ。ゴルシには、ここからマクる脚がある!オルフェーヴルだって、絶望的な場所から追い込んできたんだし、しかしいったい何なのよ、ステイ一家!
きっとどこかで典さんは、ロングスパートをかけてくれるはず!ね、あなた、そうでしょう?
・・・。
私の夢は、向正面を過ぎたところでほんのわずかに上がっていこうとするそぶりを見せたものの、典さんの鞭はゴルシの馬体を強く打つことなく15着に沈んでいった。
おそらく典さんは、ゲートで激しく立ち上がった時、脚をぶつけてはいないだろうか、ケガをしていないだろうかという、子を想うお父ちゃんみたいな感情が湧きあがり、道中、心配で心配でレースどころじゃないなかったのかもしれない。
O型の典さんは、ひとの気持ちを細部までくみ取って考える回路が生まれつき備わっていないけれど(全国のO型の皆さんスミマセン)、馬の気持ちはあっけなく手に取るようにわかるからこそ名手なんだと思っている。
ひとびとの心配をよそに、ゴルシは涼しい顔で、なおすけ改め須貝先生のもとへ到着し、こっぴどく叱られる前に、無事是名馬であることをたっぷりとアピールしてファンの視線を釘づけにしていた。須貝先生も彼の脚をみてホッとしたようで、本当はゴルシの首に巻きついてハグしたいところを、また暴れたらひとたまりもないと思ったのか、そこをぐっとこらえているようにもみえた。
優勝したのは、クサイ球は打てと言われて満塁打を放ったラブリーデイ。大外から渾身の追い込みをみせたデニムアンドルビーが2着で金子HDさんのワンツーになった。3着には不利といわれていた1枠からショウナンパンドラが入り、昨年の菊花賞以来のレースになったトーホウジャッカルが4着と、大きな冠を所持した馬が見せる立派な競馬をみせてくれた。秋天に出てくれたらいいな。
波乱なんてものじゃおさまりきれない単勝1420円。しばらくの間、潤いにみちた競馬ライフが実現する素晴らしい配当で幕を閉じたが、ざっと見積もって、私の周り半径100m以内にそんなひとはいなかったように思う。レース後きまって盛大なタラレバを語るリエちゃんも沈黙していた。
ゴルシは何度やっても無駄のような、発走調教再審査の対象になった。競走馬生命がおかしくならないようにお願いしたい。
1番人気が15着だなんて、本来なら大ブーイングがあっても不思議じゃないし、師も騎手も馬の今後を心配するような言葉を口にしていたようだけど、そこはゴルシの七癖。ちゃんとわかっていますとも。
競馬ファンの多くは、想像よりはるかに寛容なひとの集まりですよ~と、ちゃっかりここに書いてしまえ。レース後にあらためて人気投票をしても、やっぱり1位はゴルシだと思うし、好きな馬から買うという私のスタンスも特に問題なくビシッ!と突っ立ったままでござい。
「これが競馬ってもんだね」
…いえいえ、そんな日常語録みたいに言わないでください。
こんな競馬、そうそうあってたまるもんですか!