無情にも、たいした好きでもない森山直太郎の歌が流れてくる。
母さん、札幌の夏がついに終わりましたよ…。
でもね、ぷぷ!ちょいとズルして馬券当てちゃった!
5日土曜日天候は晴れ。時々数回天気雨。おまけにでっかい虹と飛行機雲。
ブレにブレまくるいろんな秋の空のもと、心に決めた馬に会いに来た。
かねてからのお楽しみ、今後のクラシックに多大な影響を及ぼすはずの札幌2歳ステークスには、私のイチオシ馬アドマイヤエイカン(父ハーツクライ、なおすけ厩舎)が登場。馬主席をチラ見すると、利一オーナーのお姿も確認できたので、これは間違いなく、鞍上の岩田を恐喝しに来たのだろうと思った。
絶対のない競馬を絶対に勝たねばならない。
そして!連敗続きの私の馬券も、今日こそ絶対に勝たなくてはならないのであった。
競馬場には私を含め5人の淑女が集まり、時々降ってくるパラパラ雨に化粧落ちを気にしながらのスタンド前。まぁ寒いのなんのって。たっぷり仕込んだ自前の脂身も、肝心な時には役立たず!結局、競馬場名物モツ煮込みを食べて胃袋から暖をとった。
メインレースが始まる前に、ウォーミングアップ馬券をやる。5R のメイクデビューを買った。
2010年阪神大賞典でトウカイトリック先生の3着に入ったステイヤー女傑のメイショウベルーガの初仔メイショウジーター(父ダイワメジャー)と、典さん騎乗のラブミーリル(父ハービンジャー)の応援馬券を単複で。どちらの馬も、昼寝から覚めてまだ微睡の中を漂っているようなパドックだったが、その中で一番コワイ目つき、ドリームジャーニーを髣髴とさせていたキングライオンが勝利。
このレースがのちの2歳ステークの明暗を分けるオカルトになろうとは…。
時が経つにつれ、ゆるゆると出目の集計が進み、スポ紙の短評を固く信じながら、メインレースのパドックを見ると、3番人気のアラバスター(母レーヴディソール)が、いかにも優等生の面持ちで歩いている。可もなく不可もなく。いい所も悪いところも見いだせないまま、ご婦人等のお見立ては「これは来ない」の総括!なかなか厳しい評価に。
ここから怒涛の買い目検討大会スタート!皆くちぐちに、誰に聞かせるわけでもなく、思ったことが全部声になって大放出となった。
「さっきの新馬戦のキングつながりで、出目もいいし1枠1番のリアルキングが来そうだ」
「馬場が稍重から改善されないね。札幌の稍重は重だよ。ここはステイっ子のクロコスミアか」
「それをいうならラヴアンドポップも洋芝適性ありって書いてある」
「変なところで藤田(騎手)がやりそう。アラモアナワヒネって何だ?」
「アフターダークは調教はAだね~」
「ルメ様のプロフェットは外せない」
「ちょっとー、13番スパーキングジョイだって!またキングだよー!」
「このメンツで大穴は我が道営のリッジマンだろうな」
そして私も声高らかに
「理由はわからん!でもー!アドマイヤエイカンしかいな~~い!」
…まったくまとまらない!!!
みんなでいろんなことを言ってるうちに、何をどこまで買っていいものかさっぱりわからなくなってしまった。そこで私が絶対に当てるべく取り出した伝家の宝刀は、
(できればリッジマン、馬券に絡んでほしいのプレゼンツ)アドマイヤエイカン1頭軸からの総流し!総流しって初めて買った馬券だけど、なんかこう、気持ちいいのか悪いのか、スパッとズルしたみたいな変な心持になった。
札幌2歳ステークス。ここで勝てば、クラシックのクの字が鮮明に見えてくる重要な1戦。
レースはスタートからやや入れ替わったのちにネコダンサーのペースに持ち込まれた。前め3番手付近にリッジマンがついていく。わぁおう!大穴~!いけー!
中団にキャロットの勝負服も眩しくプロフェットで、その後ろをマークしているアドマイヤエイカン。
芦毛のアラバスターは最後方からひっそりと追走。札幌1800m最後の直線はかなりの向かい風になり、深緑の洋芝がうねうねとさざ波たっている。りいちー!違った、エイカーーン!ガンバレー!
この辺から記憶がない。何かものすごく大声で叫んで叫んで、また叫んで。最後は「ぎゃー!」
10番と11番が前に抜け、重なるようにゴールした時、私は万歳のポーズで両手をあげ、ひとあし早く「確定」を主張していた。
「まちがいない!勝ったのはエイカンだ!」
連れのご婦人は「私はプロフェット軸なんだけどー!」と叫んでいる。
命の次に大事な小銭を夢の馬に託して熱狂するさまは、親戚縁者にはとうていみせることのできないそれぞれの「素のわたし」。何事にも興奮しなくなった身体に心地の良い血潮がみなぎって、体内メモリを最大限に振り切って終了した。
「快感だわね、これ」
「子どもの運動会より声出したわ」
懐かしいあの頃、お弁当作りが大変だったあの時代を思い出して、我が子同然の馬たちに小銭を賭ける。子どもってのは、多かれ少なかれ、お金のかかる存在ですね。
勝った岩田騎手。いつの日かを境にあんまり笑わなくなった。もっと笑っていいんですよ。
こんな私たちだって、ウチに帰ればいろいろあるんですからねー。
ご婦人5人衆のうち、3連単の万馬券ひとり、馬連ちょぼちょぼ数名、ついにオケラのひとりを含んで、競馬場の夏を無事に終えた。
「夏の終わり。夏の終わりには、ただあなたに会いたくなるの。いつか同じ風、吹き抜けるから」
直太郎、いいうた歌ってますな。これ、札幌開催最後の日に競馬場内でかけてくれたらいいのに。
次回、次走、エイカンに会える日を楽しみに、秋の飽食をして冬眠に備えます。
「頑張ったね。立派だったよ栄冠くん」
写真3枚とも長谷川さゆり氏撮影